「12のイノベーション・ウェーブ」最終部:AIとデータが「予測」と「体験」を最適化する時代
- 本間 充/マーケティングサイエンスラボ所長

- 11月24日
- 読了時間: 5分
「12のイノベーション・ウェーブ」 で市場変革のパターンを読み解くシリーズ、いよいよ最終回です。
第1部 で「生産」と「流通」の物理的制約を打ち破り、第2部 で「エネルギー」と「モビリティ」がマス市場を完成させ、第3部 で「情報」が民主化されビジネスの戦場が情報空間へ移りました。
そして今回解説する「第4部:データと知能の変革(第4次産業革命期)」は、私たちが今まさに生きている時代です。 この時代は、過去のすべての波の集大成と言えます。
第3部で「PC」に縛られていた「人」が、ついに「モバイル」によって解放され、「常時接続」 状態になりました。 その結果、人類は「ビッグデータ」 という新たな資源を手に入れ、それを「AI」 という新しいエンジンで「知能」に変換する術を身につけたのです。
マーケティングの視点では、これは「マス」から「個人(パーソナライズ)」へ、そして「過去の分析」から「未来の予測」へという、決定的なパラダイムシフトを意味します。
ウェーブ11:「モバイルとソーシャル」の時代 (The Age of Mobile and Social)
2000年代後半 、第3次産業革命の主役だった「PCとWeb」の体験を、ポケットに入れて持ち運べるデバイスが登場します。「スマートフォン」 です。
市場の変化:「常時接続」社会と「ビッグデータ」の生成開始 スマートフォンは、単なる「小さなPC」ではありませんでした。それは、ウェーブ8の「高性能IC」 、ウェーブ10の「Web技術」 、そしてGPS、カメラ、通信モジュールを融合させ、「いつでも、どこでも、その人固有の状況(コンテクスト)」と結びついたコンピュータです。 人々は「常時接続」 となり、その端末の上で「SNS」 を通じて、自らの行動、感情、人間関係といった「生データ」を爆発的に発信し始め ました。これが「ビッグデータ」 の源泉です。
技術の積み重ね:「クラウド」というインフラ革命 このスマホとSNS(アプリ) が生み出す膨大なデータを処理し、サービスを提供するためのインフラが「クラウド・コンピューティング」 です。 これも、ウェーブ10の「ブロードバンド」 とウェーブ8の「サーバー(コンピュータ)」 の超大規模集積 という、既存技術の組み合わせから生まれました。 クラウドは、企業が自前で高価なサーバー(ウェーブ8)を持つ必要性をなくし 、スタートアップでも世界的なサービスを(安価に)立ち上げられる「インフラの民主化」 をもたらしました。

ウェーブ12:「AIとIoT」の時代 (The Age of AI and IoT)
そして、2010年代後半 、現代です。 なぜ今、これほどまでに「AI(特にディープラーニング)」 が急速に進化したのでしょうか?
それは、AIという「知能エンジン」を動かすための「燃料」と「インフラ」と「ハードウェア」が、過去の波によって、すべてこのタイミングで揃ったからです。
AI(ディープラーニング)の土台となった「技術の積み重ね」
膨大な燃料(データ): ウェーブ10の「WWW」 、ウェーブ11の「ビッグデータ」 。
超強力な計算ハードウェア: ウェーブ8の「IC(GPU)」 。
安価で無限の計算基盤: ウェーブ11の「クラウド」 。
これら3つが揃ったことで、AIは「知的労働」の自動化 という、かつてないレベルのイノベーションを引き起こし始めたのです。
市場の変化:「知的労働」の自動化と「物理世界」のデータ化 AIは、画像認識、自然言語処理、需要予測など、従来は人間にしかできなかった「予測」や「判断」を自動化し始めています。 同時に、「IoT」 が、ウェーブ8の「小型センサー(IC)」 とウェーブ11の「モバイル通信」 を組み合わせ、工場の機械、自動車、家電、インフラなど、「物理世界」のあらゆるモノをデータ化し始めました 。
この「IoTで物理世界から集めたデータ(リアル)」を、「クラウド(サイバー)」に送り、「AI(知能)」で解析・予測し、最適なフィードバックを「物理世界(リアル)」に戻す。 この「物理とサイバーの融合」 こそが、第4次産業革命の本質です。

最終章:AI時代のマーケティングとは何か
「12のイノベーション・ウェーブ」を巡る旅は、ここで一旦終わりです。 では、この歴史の積み重ねの先にある「AIの波」を、私たちマーケターはどう乗りこなすべきでしょうか。
「マス」の終焉と「超パーソナライズド体験」の始まり ウェーブ6のマス・メディアと大量生産 が前提だった「マス・マーケティング」は、AIとデータによって完全に終焉します。AIは、ウェーブ11で集めたビッグデータを解析し、「一人ひとり」の顧客の好み、状況、次に取りうる行動を「予測」します。 これからのマーケティングは、この「予測」に基づき、「個」に最適化されたメッセージ、製品、体験(CX)を、最適なタイミングで提供する「予測的マーケティング」へと移行します。
「驚く」必要はない。AIも「組み合わせ」のツールである 歴史が示す通り、AIもまた「過去の技術の積み重ね」 の上にあります。AIを「魔法の箱」として恐れる必要はありません。 AIは、ウェーブ11の「クラウド」 上で、ウェーブ8の「GPU」 を使い、ウェーブ11の「ビッグデータ」 を学習する「ツール」です。
大切なのは、私たちのビジネスが持つ「独自のデータ(顧客データや業務データ)」と、この「AI」というツールをどう「組み合わせる」か、です。
例:SCM(ウェーブ9) + IoT(ウェーブ12) + AI(ウェーブ12) = 需要予測の最適化(スマート・ロジスティクス)
未来は、今までの技術の積み重ねの先にある
このシリーズを通して、技術革新がいかに過去の技術の「応用」と「拡張」であったか、そして、その波が市場と消費者をどのように変えてきたか、その「普遍的なパターン」を見てきました。
蒸気機関が「動力」を、電力が「エネルギー」を、コンピュータが「計算」を民主化したように、AIは「知能」と「予測」を民主化します。
私たちは、AIという波を、過去の鉄道、電力、コンピュータと同じように「使いこなし」、自社のビジネスやマーケティングを、次のステージへと進化させなければなりません。 歴史という羅針盤があれば、未来を恐れる必要はないのです。




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