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「12のイノベーション・ウェーブ」第3部:コンピュータが「個」をエンパワーし、Webが「場所」の制約を破壊した時代

12のイノベーション・ウェーブ」 で市場変革のパターンを読み解く第4回。 第2部 までは、蒸気、電力、自動車といった「モノ」と「エネルギー」の革命が、いかに「マス(大衆)市場」  を作り上げてきたかを見てきました。


今回解説する「第3部:情報技術と自動化の変革(第3次産業革命期)」は、主役が「モノ」から「情報(データ)」へと移る、現代に直結する大転換期です。


この時代は、「計算コスト」と「情報伝達コスト」が、雪崩を打つようにゼロに近づいていった時代です。 その結果、それまで国家や大企業が独占していた「情報処理能力」が「個人」にまで解放され 、ビジネスの主戦場は「物理空間」から「情報空間」へと劇的にシフトしました。



ウェーブ7:「コンピュータと原子」の時代 (The Age of Computers and Atoms)


1940年代後半 、戦争という巨大な需要を背景に、第3の波が始まります。 主役は「初期のコンピュータ」 と「トランジスタ」  です。


  • 市場の変化:「計算能力」の産業化 初期のコンピュータ は、国家や軍事、ごく一部の大企業や大学が使う、巨大で高価な「計算機」でした 。まだ「市場」と呼べるものではありませんでしたが、「複雑な計算」を自動化・高速化できるという、とてつもない価値(バリュープロポジション)を秘めていました。


  • 技術の積み重ね:「ラジオ技術」からの転用 興味深いことに、この初期コンピュータの頭脳は「真空管」 でした。これは、ウェーブ6の「ラジオ技術」  から転用されたものです。 しかし、真空管は壊れやすく、発熱も大きい。この問題を解決したのが、同じ時代に発明された「トランジスタ」 です。この「トランジスタ」 が真空管 を代替し、コンピュータの信頼性と小型化を飛躍的に向上  させ、次の波の土台となります。



ウェーブ8:「ICと自動化」の時代 (The Age of ICs and Automation)


1960年代 、コンピュータの進化は「トランジスタ」  の「集積」へと向かいます。 それが「IC(集積回路)」 であり、その発展形である「マイクロプロセッサ」  です。


  • 市場の変化:コンピュータの普及と工場の自動化


    ウェーブ7の「トランジスタ」 を無数に集積したIC により、コンピュータはメインフレーム  として企業に普及し始めます。経理、在庫管理、給与計算など、企業の「基幹業務」が次々とシステム化されていきました。 また、工場では、ウェーブ7の「コンピュータ(制御技術)」 とウェーブ4の「モーター」 が組み合わさり、「産業用ロボット」 が誕生。ウェーブ5の「ベルトコンベア」 と組み合わさり、工場の自動化(FA) を推進しました 。 ここでは「ブルーカラー(現場労働者)の自動化」  が進みました。


巨大なメインフレームと磁気テープ装置
巨大なメインフレームと磁気テープ装置

ウェーブ9:「PCとネットワーク」の時代 (The Age of PCs and Networks)


1980年代後半 、ついに決定的な波が来ます。 ウェーブ8の「マイクロプロセッサ」 を心臓部に持つ、「パーソナルコンピュータ(PC)」  の登場です。


  • 市場の変化:情報処理能力の「個人」への解放 それまで「企業」のものだったコンピュータが、「個人」の机の上に乗りました。これは、マーケティングの視点では「情報武装」の民主化です。 表計算ソフトやワープロソフトにより、個人の生産性は飛躍的に向上 (OA化)。ここで「ホワイトカラー(知的労働者)の生産性変革」  が始まりました。


  • 技術の積み重ね:「コンピュータ」と「電話回線」の接続 そしてもう一つの主役が「初期のインターネット」  です。 これも、ウェーブ7の「コンピュータ」 同士を、ウェーブ4の「電話(通信回線)」 という既存のインフラで接続する技術(ARPANETが起源)  から始まりました。 最初は研究者用でしたが、この「PC」という個人端末と「ネットワーク」という接続技術が、次の時代の爆発的なイノベーションの土台となります。



ウェーブ10:「WebとEコマース」の時代 (The Age of Web and E-Commerce)


1990年代後半 、第3次産業革命はクライマックスを迎えます。 ウェーブ9の「インターネット」 という道の上を、ウェーブ9の「PC」 を使って、誰でも簡単に情報を「見て」「発信できる」ようにした技術、「World Wide Web (WWW)」  の登場です。


  • 市場の変化:情報アクセスの民主化と「場所」の制約の崩壊 WWW(ウェブ)は、「情報の非対称性」  を破壊しました。それまで企業や専門家しか持っていなかった情報に、誰もがアクセスできるようになったのです。 そして、「Eコマース」  が誕生します。 これは、「WWW(店舗)」 + 「インターネット(流通網)」 + 「PC(顧客端末)」  という組み合わせによる、小売業の革命でした。


    マーケティングにとって、これは「場所(Place)」の制約が(ほぼ)消滅  したことを意味します。世界中の誰もが顧客になり得ると同時に、世界中の誰もが競合になり得る、「超フラットな市場」が誕生したのです。 また、「検索エンジン」  が、この膨大な情報の中から「欲しい情報」を見つけ出す「新しい情報流通のインフラ」となりました。


初期のWorld Wide Web(WWW)のブラウザ画面
初期のWorld Wide Web(WWW)のブラウザ画面

第3部が現代のマーケティングに与えた教訓

第3次産業革命は、ビジネスの「戦場」と「武器」を根本から変えました。


  1. 「情報コスト」の低下が、新しいビジネスモデルを生む 「計算コスト」と「通信コスト」の劇的な低下が、PC産業、ソフトウェア産業 、Webサービス業  といった、まったく新しい巨大市場を生み出しました。現代のSaaS(Software as a Service)やプラットフォームビジネスの原型は、すべてこの時代に作られました。


  2. 「情報の非対称性」の崩壊が、顧客の力を増大させる Webと検索エンジンの登場により、顧客は企業よりも多くの情報を持つことさえ可能になりました。企業が一方的に情報を流す「マス・マーケティング(第2部)」の時代は終わりを告げ、顧客と「対話」し、「検索される」ことが重要になる、現代のマーケティングが幕を開けたのです。


PCとWebによって、世界中の「情報」がつながりました。しかし、まだ「人」そのものは、PCの前(机の上)に縛り付けられたままでした。 次回、最終回。ついに、その「人」が解放され、AIの時代が幕を開ける「第4部:データと知能の変革」を解説します。

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