なぜAIは怖くないのか? 「12のイノベーション・ウェーブ」に学ぶ、市場変革の普遍的パターン
- 本間 充/マーケティングサイエンスラボ所長

- 21 時間前
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みなさん、こんにちは。 技術革新と市場変動の関係を研究している、マーケティングの研究家です。
現代のビジネスシーンは、「AI」「IoT」「ビッグデータ」といった言葉で溢れかえっています。特にAIの進化は凄まじく、「AIによって仕事が奪われる」「自社のビジネスモデルが根底から覆されるのではないか」といった不安、いわば「テクノロジー・パニック」とも言える状況に陥っている方も少なくないでしょう。
マーケターとしても、消費者の行動や価値観が急速に変化する中で、次に打つべき一手が見えにくい、と感じているかもしれません。
しかし、マーケティングの研究家として歴史を紐解くと、一つの明確な事実が浮かび上がってきます。それは、「一見、突然現れたように見える革新的な技術も、実際には過去の技術の積み重ね(リコンビネーション=再結合)から生まれている」という事実です。
そして、その技術が市場や社会に与える影響、つまり「新しい波」が来るたびに人々が経験する「驚き」「混乱」「適応」「そして熱狂」のプロセスには、驚くほど普遍的なパターンが存在します。
AIは「突然変異」ではなく、「必然の進化」
私たちが今直面しているAIという巨大な波も、決してゼロから生まれた突然変異ではありません。それは、過去の技術革新が積み上げてきた土台の上に、必然的に現れた波なのです。
このブログシリーズでは、この「必然の進化」を理解し、未来の市場変化を読み解くための羅針盤として、産業革命以降の技術革新の大きな流れを「12のイノベーション・ウェーブ (The 12 Innovation Waves)」という独自の視点で分類し、解説していきます。

なぜマーケティング研究家が「歴史」を語るのか
マーケティングとは、突き詰めれば「市場と顧客の変化に対応し、価値を創造し続ける活動」です。そして今、AIが引き起こそうとしている変化は、あまりにも大きく、本質的に見えます。
しかし、歴史を振り返れば、私たちはすでに「似たような体験」を何度も繰り返してきました。
「工場」が職人の仕事を奪うと恐れられた時代(ウェーブ1:蒸気と工場)
「鉄道」が時間と空間の感覚を破壊し、既存の流通網を壊滅させた時代(ウェーブ2:鉄道と輸送)
「電力」が夜の闇をなくし、人々の生活リズムと工場のあり方を一変させた時代(ウェーブ4:電力と通信)
「PC」が情報の独占を崩し、個人の生産性を爆発させた時代(ウェーブ9:PCとネットワーク)
「Web」が物理的な店舗の価値を問い直し、情報の非対称性を破壊した時代(ウェーブ10:WebとEコマース)
これらの大波が来た時、既存のビジネスは大きな打撃を受け、多くの人々が混乱しました。しかし同時に、その波をいち早く理解し、乗りこなした者たちが、新たな時代の勝者となっていきました。
「12のイノベーション・ウェーブ」 を知ることは、単なる過去の知識を得ることではありません。それは、変化の「パターン」を学ぶことです。パターンがわかれば、次に何が起こるか、ある程度の予測が可能になります。
AIという波に対して、私たちは何をすべきか。 そのヒントは、蒸気機関や電力、コンピュータが市場をどう変えたか、という歴史の中に隠されています。
「12のイノベーション・ウェーブ」 全体俯瞰
このシリーズでは、添付の論文(技術トレンド)で整理されているように、技術革新の波を以下の4つの大きな時代(=産業革命の区分)に分けて、それぞれの波が市場と消費者に何をもたらしたかを詳細に見ていきます。
機械化と動力の変革(第1次産業革命期)
ウェーブ1: 蒸気と工場
ウェーブ2: 鉄道と輸送 (モノづくりの「場所」と「規模」の制約、モノ運びの「距離」と「時間」の制約が打ち破られた時代)
重化学工業とエネルギーの変革(第2次産業革命期)
ウェーブ3: 鉄鋼と化学
ウェーブ4: 電力と通信
ウェーブ5: 大量生産と自動車
ウェーブ6: マス・メディアと家電 (エネルギー革命(電力)とモビリティ革命(自動車)が、「マス市場(大衆消費社会)」と「マス・マーケティング」を完成させた時代)
情報技術と自動化の変革(第3次産業革命期)
ウェーブ7: コンピュータと原子
ウェーブ8: ICと自動化
ウェーブ9: PCとネットワーク
ウェーブ10: WebとEコマース (「計算コスト」と「情報伝達コスト」が劇的に低下し、ビジネスの主戦場が「物理空間」から「情報空間」へとシフトし始めた時代)
データと知能の変革(第4次産業革命期)
ウェーブ11: モバイルとソーシャル
ウェーブ12: AIとIoT (すべてのモノと人が常時接続され、そこで生み出される「データ」が「AI」によって「知能(=予測・最適化)」へと変換され、新たな価値を生み出す時代)

新しい技術に驚く必要はない
この歴史の旅を通じて、皆さんに最も伝えたいメッセージはこれです。
「新しい技術に、過度に驚いたり、恐れたりする必要はない」 「将来は、今までの技術の積み重ねの先に必ずある」
私たちが今、AIに対して感じている「畏れ」や「戸惑い」は、かつて鉄道や電気、自動車が登場した時に、当時の人々が感じたものと本質的に同じです。
大切なのは、その技術が「どの技術の土台(応用・拡張)の上に立っているのか」を見極め、それが「市場のどのような非効率・不便(=顧客のペイン)を解決しようとしているのか」を理解することです。
それができれば、AIは「仕事を奪う脅威」ではなく、「新しい市場を創造するための最強のツール」として見えてくるはずです。
次回からは、いよいよ第1部の「機械化と動力の変革」から、具体的な波の中身を見ていきましょう。すべての始まりである「蒸気と工場」が、いかにして現代のマーケティングの「前提」を作り上げたのか。ぜひご期待ください。


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