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メディアの夜明け:12のイノベーション・ウェーブ (The 12 Innovation Waves) が解き明かす「情報の工業化」と新聞の革命

更新日:1月14日

皆さんは毎朝、スマホでニュースをチェックしますよね? 実は「毎日新しい情報が届く」という当たり前の習慣は、人類史において比較的最近の発明なのです。

メディアの進化を技術革新から読み解くフレームワーク「12のイノベーション・ウェーブ (The 12 Innovation Waves)」。今回はその原点となる、第1次産業革命期(第1・2の波)に焦点を当てます。「蒸気」と「鉄道」という巨大な鉄の塊が、いかにして私たちの「知る権利」の土台を作ったのか。その劇的なドラマをご紹介しましょう。


1. 蒸気機関がもたらした「情報の同期」


18世紀末、第1の波「蒸気と工場」が到来します。それまでの印刷は、職人が手作業でプレス機を回す重労働で、1時間に数百枚刷るのが限界でした。本は高価な貴重品であり、庶民には手が届きません。

しかし、蒸気機関の登場ですべてが変わります。1814年、ロンドンの『タイムズ』紙は蒸気印刷機を導入し、生産性を一気に4倍以上に引き上げました 。これにより、夜に起きた出来事を翌朝の食卓に届ける「日刊新聞(Daily Newspaper)」というビジネスモデルが物理的に可能になったのです 。


情報は、特権階級だけのものから、工場で大量生産される綿織物と同じ「工業製品(コモディティ)」へと姿を変えました。都市に住む人々が、毎朝同じ新聞を読み、同じ話題を共有する。これにより、見知らぬ人同士の間に「擬似的な共同体意識」が芽生えたのです 。


蒸気が知識を加速させた。情報の大量生産時代の幕開け。
蒸気が知識を加速させた。情報の大量生産時代の幕開け。


2. 鉄道と電信:距離の消滅と「アテンション・エコノミー」の誕生


続く第2の波「鉄道と輸送」では、鉄道網が市場を全国へと広げ、電信(Telegraph)が情報の伝達速度を「物理的な移動」から解放しました 。


この時期、メディアビジネスにおける最大の革命が起きます。「ペニープレス(大衆紙)」の登場です。それまで1部6セントもしたエリート向けの新聞に対し、ベンジャミン・デイの『ニューヨーク・サン』紙などは、わずか1ペニーで新聞を街頭販売しました 。


なぜそんな安値が可能だったのか? 答えは「広告」です。彼らは情報を売るのではなく、面白い記事で大衆の「注目(アテンション)」を集め、その読者を広告主に売るビジネスモデルを発明したのです 。これは現代のYouTubeやSNSのビジネスモデル(アテンション・エコノミー)の原型と言えます。


3. 歴史的メディア活用事例


この時代の象徴的な事例を見てみましょう。

事例:ペニープレスと「月の住人」

1835年、『ニューヨーク・サン』紙は「著名な天文学者が望遠鏡で月に文明を発見した」というフェイクニュース(月の記事捏造事件)を掲載しました。現代なら大問題ですが、当時はこれが大衆の好奇心を刺激し、発行部数が爆発的に伸びました。これは「事実」よりも「面白さ」を優先する商業ジャーナリズムの走りであり、アテンション・エコノミーの光と影を象徴する出来事です。



4. 結論:技術が「時間」と「距離」を征服した

第1・2の波において、技術は情報の「複製速度」と「伝達範囲」を拡張しました。12のイノベーション・ウェーブ (The 12 Innovation Waves) の視点で見れば、現代のネットニュースの速報性も、クリックベイト(釣りタイトル)も、すべてはこの時代に蒔かれた種がデジタル化したものと言えるでしょう。

メディアは単なる情報伝達手段ではなく、技術によってその形を変える「生き物」なのです。


1ペニーで買える世界。広告モデルが情報を民主化した。
1ペニーで買える世界。広告モデルが情報を民主化した。


メディアと技術の変遷

時代区分

イノベーションの波

基幹技術

メディア・ビジネスモデルの変遷

社会的・マーケティング的インパクト

第1次

1. 蒸気と工場

蒸気機関

受注生産 → 見込み生産(新聞)

情報の同期性、ニュースの商品化


2. 鉄道と輸送

鉄道・電信

高価格紙 → ペニープレス(広告モデル)

アテンション・エコノミーの萌芽、市場の全国化

第2次

3. 鉄鋼と化学

化学染料

文字情報 → 色彩(ポスター、パッケージ)

イメージ広告、消費文化の形成


4. 電力と通信

電話・写真

文字報道 → 写真報道(イエロー・ジャーナリズム)

視覚的衝撃、通信による速報性


5. 大量生産

ラジオ・生産ライン

点のメディア → 放送(スポンサーシップ)

ナショナルブランドの確立、ながら消費


6. マスメディア

テレビ

ラジオ・映画 → TV(マス広告モデル)

視聴覚の占有、受動的消費の極致

第3次

7. コンピュータ

トランジスタ

マス → セグメンテーション(専門誌)

データ処理の産業利用


8. ICと自動化

IC・VCR

放送 → 多チャンネル・時間シフト

メディアの細分化、個人の選択性の向上


9. PC/ネット

PC・Web

物理在庫 → ロングテール(EC)

制作・流通の民主化、物理制約の撤廃


10. Web/EC

検索・ブロードバンド

パッケージ → アンバンドリング(検索広告)

検索経済、既存メディア(新聞等)の収益崩壊

第4次

11. モバイル

スマホ・SNS

検索 → フィード(ターゲティング広告)

常時接続、アルゴリズムによるアテンション支配


12. AIとIoT

生成AI・エージェント

アテンション → インテンション(代理消費)

デジタルメディアの代替、真正性の回帰、Zero UI

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