情報革命の真実:「12のイノベーション・ウェーブ」で見るITと自動化がもたらした個への回帰
- 本間 充/マーケティングサイエンスラボ所長

- 3 日前
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はじめに:計算能力が市場を解像する
前回の記事では、ラジオなどのマスメディアによって、市場全体をひとまとめにする「マス・マーケティング」が完成した過程を見ました。しかし、市場は本当にひとつの塊(マス)なのでしょうか? 第3次産業革命期に入ると、「計算能力」という新たな武器がマーケターの手に渡ります。これにより、漠然とした「大衆」の姿が、データによって解像度高く可視化され始めました。「12のイノベーション・ウェーブ (The 12 Innovation Waves)」の第7波から第10波を通じて、ITがいかにしてマーケティングを「個」へと引き戻したのかを解説します 。
1. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第7波:コンピュータと原子の時代 (1940年代後半 ~ 1960年代)
初期のコンピュータは、真空管やトランジスタを用いた巨大な装置で、政府や大企業だけが独占できるものでした 。
統計的市場調査の夜明け
この時代、コンピュータの驚異的な計算能力は、主に国勢調査や大規模な消費者アンケートの集計に使われました 。 これが「統計的市場調査」の始まりです。膨大なデータを処理することで、市場の全体像やマクロトレンドを数値として把握する試みが始まりました。マーケティングが「勘」から「科学」へと一歩踏み出した瞬間です。 また、IBMに代表されるコンピュータメーカーは、この超高額な製品を売り込むために、導入後の運用や保守まで含めた「BtoBソリューション営業」の手法を発達させました 。
2. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第8波:ICと自動化の時代 (1960年代 ~ 1980年代前半)
IC(集積回路)の発明により、コンピュータは小型化・低価格化し、多くの企業に普及し始めました 。
セグメンテーションの本格化
企業が自社で計算能力を持つようになると、SPSSなどの統計解析ソフトを用いて、顧客データを分析することが可能になりました 。 これにより、市場を「マス」として一括りにするのではなく、年齢、性別、地域、所得などで細分化(セグメント)する手法が一般化しました 。クラスター分析などでターゲットを特定し、最も魅力的な層に資源を集中投下する。現代マーケティングの基本であるSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)分析は、この時代の技術的進歩があって初めて実用的になったのです。

3. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第9波:PCとネットワークの時代 (1980年代後半 ~ 1990年代後半)
パーソナルコンピュータ(PC)の登場は、情報処理能力を「企業」から「個人(担当者)」へと解放しました 。
データベース・マーケティングとSCM オフィスにPCが普及し、Excelなどの表計算ソフトや顧客データベースが使えるようになると、マーケティングはさらに精緻になります 。 顧客リスト(氏名、住所、購買履歴)を管理し、「優良顧客」や「休眠顧客」を識別してダイレクトメールを送るといった「個客」レベルのアプローチが可能になりました。 また、バーコードとPOSシステムの普及により、小売店での「何が、いつ、いくつ売れたか」という実売データがリアルタイムで収集できるようになり、サプライチェーン・マネジメント(SCM)が劇的に効率化されました 。
4. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第10波:WebとEコマースの時代 (1990年代後半 ~ 2000年代後半)
そして、第3次産業革命のクライマックスにして最大の変革、「World Wide Web (WWW)」が登場します 。
情報の非対称性の崩壊
インターネットの普及は、消費者に「検索」という武器を与えました 。 これまでは企業が発信する広告情報を受け取るだけだった消費者が、自ら情報を探し、比較検討できるようになったのです。これは「情報の非対称性」の崩壊を意味しました。 企業にとっては、自社サイトを見つけてもらうためのSEO(検索エンジン最適化)や検索連動型広告(SEM)が最重要課題となりました 。GoogleやAmazon、楽天といったプラットフォーマーが覇権を握ったのもこの時代です 。

場所の制約からの解放
Eコマースの誕生により、物理的な店舗を持たずに世界中に商品を販売できるようになりました 。流通(Place)の概念が根底から覆され、Webマーケティングという新たな領域が確立されたのです。
まとめ:解像度が上がれば戦術が変わる
「12のイノベーション・ウェーブ」の第3フェーズを通じて、マーケティングの対象は「マス」から「セグメント」、そして「データベース上の個客」へと微細化してきました。 PCとネットは、消費者を賢くし、企業に透明性を求めました。しかし、ここまではまだ「PCの前に座っている時」の話です。次の時代、インターネットは私たちの「手の中」に入り込み、生活のすべてをデータ化し始めます。次回は、AIとIoTが支配する現代、第4次産業革命期について解説します。




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