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「12のイノベーション・ウェーブ」が示す大衆消費の完成:重化学工業からマスメディアまで

更新日:1月14日

はじめに:質の向上から情報の拡散へ

前回は、蒸気機関と鉄道がいかにして「生産」と「流通」の基盤を作ったかを解説しました。しかし、まだ市場には「似たような製品」が溢れているだけでした。 産業革命が第2フェーズに入ると、技術は製品そのものの魅力を高め、それを消費者に伝える手段を進化させます。「12のイノベーション・ウェーブ (The 12 Innovation Waves)」の視点から、第2次産業革命期(重化学工業とエネルギーの変革)におけるマーケティングの劇的な進化を紐解きます 。


1. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第3波:鉄鋼と化学の時代 (1840年代 ~ 1860年代)


この時代、重化学工業の発展により、製品の「品質」と「差別化」という概念が生まれました 。


安価な鋼鉄とインフラの進化

ベッセマー法などに代表される技術革新により、安価な鋼鉄が大量に生産できるようになりました 。これは第1波の製鉄技術の改良版ですが、その影響は甚大でした。鉄道レールが高耐久な鋼鉄製になったことで輸送がさらに高速化され、機械製品自体の品質も向上しました 。 マーケティング的には、特にBtoB(企業間取引)において大きな変化がありました。鉄道会社に対し、「従来の鉄レールより高耐久な鋼鉄レール」を売り込むといった、機能的価値を訴求する「ソリューション営業」の原型が行われるようになったのです 。


化学がもたらした「彩り」という付加価値

一方、化学工業の発展は、消費者に直接的な喜びをもたらしました。合成染料の登場です 。 それまで高価だった染料が安価になり、繊維製品に「色(デザイン)」という付加価値が加わりました 。これは画期的な出来事です。機能一辺倒だった製品に「見た目の美しさ」という差別化要素が生まれたのです。新聞や雑誌広告でも、この「新しさ」や「機能」が盛んに訴求されるようになりました 。


化学工業の発展は、消費者に直接的な喜びを
化学工業の発展は、消費者に直接的な喜びを

2. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第4波:電力と通信の時代 (1870年代 ~ 1890年代)


続いて訪れた第4の波は、「電力」と「電話」による革命です 。


「夜」という市場の創出

電力システム(発電・送電・電灯)の実用化は、工場の動力を蒸気からモーターへと変え、生産効率を上げました 。しかし、マーケティングにとってより重要なのは「電灯」です。 電灯により、デパートや商店は夜間営業が可能になり、ショーウィンドウのライトアップが始まりました。これにより「夜」という新たな消費時間が生まれ、集客機会が劇的に増大しました 。いわゆる「時間帯マーケティング」の原点です 。


双方向コミュニケーションの始まり

また、「電話」の普及は、企業と顧客の関係を「リアルタイムかつ双方向」にしました 。注文受付や問い合わせ対応が即座に行えるようになり、ダイレクト・レスポンスやテレフォン・セールスの初期形態がこの時代に確立されました 。


3. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第5波:大量生産と自動車の時代 (1900年代 ~ 1920年代)


20世紀に入ると、ついに「マス・マーケティング」の時代が到来します 。


T型フォードと価格破壊

この時代を象徴するのは、フォード・モーターによる「T型フォード」です。ベルトコンベアと科学的管理法を組み合わせた「大量生産方式」は、製品単価を劇的に引き下げました 。 「一家に一台」というスローガンが現実のものとなり、労働者自身が消費者となる「大衆消費社会」が幕を開けました 。 ここでのマーケティングは、市場全体(マス)を単一のターゲットとみなし、Product(単一製品)とPrice(低価格)を極限まで追求する戦略でした。「(黒色なら)どんな色の車でもお求めになれます」という言葉は、この時代の生産者主導のマス・マーケティングを象徴しています 。


4. 「12のイノベーション・ウェーブ」の第6波:マス・メディアと家電の時代 (1920年代 ~ 1940年代)


第2次産業革命期の最後を飾るのは、情報を大量にばら撒く技術、「ラジオ」の登場です 。


「ブランド」を植え付ける装置

ラジオ放送は、企業が家庭の中に直接入り込むことを可能にしました。音声による広告(ラジオCM)を、不特定多数の消費者に一斉配信できるようになったのです 。 これにより、企業は製品の機能だけでなく、「ブランド・イメージ」を大衆に植え付けることが可能になりました。P&Gがラジオドラマ(ソープオペラ)のスポンサーになり、主婦層に向けて洗剤を売り込んだのはあまりにも有名です 。 また、電力と大量生産技術の融合により生まれた洗濯機や掃除機などの「家庭電化製品(家電)」が、ラジオCMの格好の商材となりました 。

ラジオ放送は、企業が家庭の中に直接入り込む
ラジオ放送は、企業が家庭の中に直接入り込む

情報の均質化と広告産業の隆盛

ラジオを通じて、全国民が同じ情報を聞き、同じ文化を共有するようになりました。情報の均質化です 。 広告業が一躍巨大産業となり、企業はスポンサー活動を通じて認知度を高める「プロモーション(Promotion)」戦略を洗練させていきました 。


まとめ:作る技術から伝える技術へ

12のイノベーション・ウェーブの第2フェーズでは、技術が製品をリッチにし(鉄鋼・化学)、販売時間を広げ(電力)、安価にし(大量生産)、そしてイメージを広める(ラジオ)役割を果たしました。 こうして、現代に続く「大量生産・大量消費・大量宣伝」のモデルが完成したのです。しかし、次の時代、コンピュータの登場がこの「マス」の時代を解体し始めます。次回は、第3次産業革命期、情報技術がもたらした変化を見ていきます。

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