スーパーボウル60広告戦略:ヘルマンズが示す「一貫性」の狂気と勇気 — 6年続く不変のメッセージが築く最強のブランド資産
- 本間 充/マーケティングサイエンスラボ所長

- 2月3日
- 読了時間: 5分
はじめに:スーパーボウル60における「不変」の衝撃
2026年2月、サンタクララのリーバイス・スタジアムで開催される第60回スーパーボウル(スーパーボウル60)。広告枠の価格が12億円を突破し、誰もが「度肝を抜く新しさ」を追い求める中、ユニリーバの「ヘルマンズ(Hellmann's)」が選んだのは、驚くほど一貫した「継続」の道でした。
今回の記事では、ヘルマンズが6年もの間、スーパーボウルの舞台で語り続けている「Make Taste, Not Waste」というパーパス・マーケティングの真髄と、2026年の最新クリエイティブが昨年の伝説的な広告をいかに継承しているかを考察します。
1. 「同じメッセージ」を出し続ける勇気と、社内調整の苦闘
マーケターにとって、毎年同じスローガンを使い続けることは、実は「新しく何かを始めること」よりもはるかに勇気が必要です。
12億円の枠で「去年と同じこと」を言う難しさ
30秒で800万ドルという投資。社内(特に経営陣やステークホルダー)からは必ず、「今年はもっと違う、斬新なアイデアはないのか?」「去年と同じメッセージで、ROI(投資対効果)は本当に最大化できるのか?」という声が上がるはずです。
この「社内の議論と調整」は、現場のマーケターにとって最も胃が痛くなる作業でしょう。しかし、ヘルマンズはこの高い壁を乗り越え続けています。その理由は、一貫性が生む「ブランド資産の複利効果」にあります。マヨネーズを単なる調味料ではなく、「残り物を救うヒーロー」として定義し続ける。この6年間の執念が、消費者の脳内に「残り物=ヘルマンズの出番」という強力な回路を定着させたのです。
2. 2026年ティザーが示す、2025年「伝説のリバイバル」へのオマージュ
今年のスーパーボウル60に向けたティザー広告を分析すると、そこには戦略的な「既視感」が仕込まれています。
2025年の『恋人たちの予感』という頂点
昨年(2025年)のCMは、まさに映画ファンの心を掴む「事件」でした。映画公開から35年を経て、メグ・ライアンとビリー・クリスタルが共演。あの伝説のデリのシーンを彷彿とさせる設定で、「残り物への愛」を語り合ったのです。さらに最後には、現代の人気女優シドニー・スウィーニーが登場し、映画史に残る名セリフ「I’ll have what she’s having(彼女が食べているのと同じものを)」を放つという、完璧な構成でした。
「Meal Diamond」が受け継ぐDNA
2026年の最新キャンペーン「Meal Diamond」では、コメディアンのアンディ・サムバーグがニール・ダイアモンド風のキャラクターとして登場します。一見、映画から音楽へとジャンルが変わったように見えますが、その根底にあるのは「伝説的なポップカルチャーのアイコンを使い、真剣にバカバカしくブランドの主張を歌い上げる」という2025年の成功フォーマットへのオマージュです。
ティザーで見せるアンディ・サムバーグの仰々しいパフォーマンスや、1970〜80年代のスターを彷彿とさせるノスタルジックな演出は、昨年のメグ・ライアンらが作り上げた「ノスタルジー×コメディ」のトーン&マナーを確実に引き継いでいます。これにより、視聴者は「ああ、今年もあの楽しいヘルマンズが帰ってきた」と、迷わずブランドの世界観に合流できるのです。

3. テクノロジーとの融合:AIツール「Meal Reveal」
ヘルマンズの戦略が「一貫性」だけで終わらないのは、メッセージを裏付ける「解決策」を常にアップデートしている点です。
スーパーボウル60に合わせて展開される「Meal Reveal」は、Google CloudのAIを活用した最先端ツールです。昨年のリバイバル広告で喚起した「残り物への愛(エモーション)」を、今年は「スマホで冷蔵庫をスキャンする」という具体的な「機能(ファンクション)」へと落とし込みました。
「何を作ればいいか分からない」という消費者の痛み(ペインポイント)をAIで解決し、そこにヘルマンズのマヨネーズを介在させる。この「感情から行動へ」のシームレスな接続こそ、現代のスーパーボウル広告に求められる設計図です。
4. マーケターが学ぶべき「パーパスの資産化」
ヘルマンズの事例は、パーパス・マーケティングが陥りがちな「説教臭さ」を回避するヒントを教えてくれます。
「真面目なテーマ」を「エンタメの皮」で包む
食品廃棄という社会課題を、昨年の伝説的俳優や今年の人気コメディアンを通じて届けることで、消費者の心理的障壁を下げています。
「変えない」ことで「文化」になる
6年続けることで、「Make Taste, Not Waste」はもはや単なるキャッチコピーではなく、スーパーボウルという文化行事の一部(恒例行事)へと昇華されました。

結論:2026年の勝者が示す「接続」のデザイン
スーパーボウル60において、ヘルマンズが証明したのは「変えないことの強さ」です。しかし、それは決して「停滞」ではありません。
昨年のメグ・ライアンとビリー・クリスタルによる壮大なリバイバルを「最高峰の舞台」とし、今年の「Meal Diamond」をその「精神的続編」として位置づける。この連続性こそが、情報が氾濫する時代において、ブランドが「物語」として記憶される唯一の方法なのかもしれません。
流行を追いかける誘惑に打ち勝ち、自らのメッセージを信じ抜く。ヘルマンズの戦略は、ブランドの「核」を見失いがちなすべてのマーケターにとって、一筋の光となるはずです。

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