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スーパーボウル60広告戦略:Budweiserが貫く「変わらない勇気」。ブランドの遺産がいかにして不確実な時代の最強の武器になるのか?

シリーズでお届けしている「スーパーボウル60(LX)」の広告戦略分析。第1回はOakley Metaの「テクノロジーの人間化」第2回はPringlesの「ポップカルチャーとの同調」について考察してきました。


第3回となる今回は、アメリカの広告の歴史そのものと言っても過言ではないブランド、Budweiser(バドワイザー)を取り上げます。


近年のスーパーボウル広告は、暗号資産の台頭、メタバース、そして生成AIと、その時々の「最先端」を映し出す鏡のような役割を果たしてきました。しかし、2026年の記念すべき第60回大会において、Budweiserが提示した戦略は、それらとは真逆のベクトルを向いていました。


彼らが選んだのは、「徹底的なヘリテージへの回帰」と「変わらない安定」の提供です。

一見すると保守的に見えるこの戦略が、なぜ今の不確実な時代において、競合他社を圧倒するほどのパワーを持ち得るのか。その裏側に隠された、緻密なブランド・マネジメントの極意を深掘りします。


1. 信頼の象徴:クライズデールとハクトウワシが果たす役割


Budweiserの広告と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか? 多くの人が、重厚な馬車を引く「クライズデール(Clydesdales)」という巨馬や、誇り高く空を舞う「ハクトウワシ(Bald Eagle)」を想起するはずです。


今回のスーパーボウル60のキャンペーンにおいても、これら2つのシンボルは中心的な役割を果たしました。マーケターとして注目すべきは、「なぜ、彼らはこれらを出し続けるのか?」という点です。

udweiser | Super Bowl LX Teaser 'Stable'

私の主張したい第一のポイントは、歴史と信頼を基盤とするブランドにとって、これら不変のアイコンは「アンカー(錨)」として機能しているということです。


2026年は生成AIの普及によって「何が本物で、何が偽物か」の境界が曖昧になり、消費者が「真実性(Authenticity)」に対してかつてないほど敏感になっている時期です。そんな中、Budweiserが1世紀近く使い続けてきた「物理的なシンボル」を提示することは、単なるノスタルジーの提供ではありません。


「世界が変わっても、Budweiserは変わらずここにいる」という、強烈な安心感と信頼のシグナルを市場に送っているのです。クライズデールの力強い足音やハクトウワシの鋭い眼差しは、デジタル疲れを起こした消費者の心に、「実存する本物」としてのブランド価値を深く刻み込みます。


2. 戦略的「不変」:奇をてらわない勇気


マーケターの世界では、「新しいこと(Newness)」こそが正義とされがちです。毎年、より斬新な、より奇抜なクリエイティブで世間を驚かせようと躍起になります。しかし、Budweiserの戦略はその対極にあります。


ここが私の主張したい第二のポイントです。ブランドによっては「奇をてらわないこと」こそが、最も困難で、かつ最も効果的な戦略になり得るのです。


Budweiserのような、国民的飲料(The Great American Beer)としての地位を確立しているブランドにとって、スーパーボウルは「実験の場」ではありません。「自らがリーダーであることを再確認する場」です。


もしBudweiserが急にサイバーパンクな世界観や、若年層に媚びすぎた奇抜な演出に手を出せば、これまでの50年で築き上げた「信頼」のストックを毀損するリスクがあります。彼らはあえて、古き良きアメリカの田園風景、雪の中を走る馬車、友情、家族といった普遍的なストーリーを選択しました。


これは「クリエイティブの怠慢」ではなく、「ブランド・アイデンティティの護持」という高度な戦略的判断です。マーケターが陥りがちな「何か新しいことをしなければならない」という強迫観念を捨て、自社の資産(アセット)を最も純粋な形で提示する。この「変わらない勇気」こそが、スーパーボウルという喧騒の中で、Budweiserを唯一無二の存在たらしめているのです。

「クライズデール(Clydesdales)」という巨馬
「クライズデール(Clydesdales)」という巨馬

3. テクノロジー・ハイプへのアンチテーゼとしての「身体性」


スーパーボウル60の広告トレンドは「ネオ・クラシック」へと移行しています。過去数年の「デジタルへの過度な依存」から、再び「人間味」や「身体性」への揺り戻しが起きているのです。


Budweiserの広告には、常に「五感」への訴求があります。ビールの冷たさ、馬の体温、乾杯の音。これらは、ディスプレイ越しでは決して味わえない「物理的な体験」を想起させます。


デジタルサービスやAI製品の広告が「未来の可能性」を語る一方で、Budweiserは「今のこの瞬間の満足」を語ります。このコントラストこそが、スーパーボウルの視聴者にとって、最高の「口直し」として機能します。ハイテクな製品広告が並ぶ中で、泥臭く、しかし気高く描かれるBudweiserの映像は、視聴者の情緒に直接訴えかけ、ブランドに対する愛着を深めるのです。


4. マーケターがBudweiserから学ぶべき3つのこと


私たちがBudweiserのこのキャンペーンから学ぶべき教訓は、以下の3点に集約されます。

  1. ブランド資産(アセット)を特定し、守り抜くこと

    • 自社にとっての「クライズデール」は何なのか?それはロゴなのか、特定のサービス体験なのか、それとも創業の精神なのか。それを特定し、流行に左右されずに一貫して伝え続けることが、長期的な信頼を生みます。

  2. 「新しさ」よりも「文脈」を優先する

    • スーパーボウルのような巨大なイベントでは、視聴者は「サプライズ」だけでなく「確認」も求めています。「いつものあの感じ」を提供することで、ブランドは消費者の生活の一部としての地位を固めることができます。

  3. 不確実な時代ほど「安定」が商品価値になる

    • 社会情勢が不安定な時、消費者は伝統や歴史に安心を求めます。自社のブランドが持つ「変わらなさ」を、ポジティブなベネフィットとして再定義できるかどうかが、マーケターの腕の見せ所です。


スーパーボウル60の会場とハクトウワシ(Bald Eagle)
SuperBowl60の会場とハクトウワシ(Bald Eagle)

結論:歴史は、最もコピーしにくい競争優位性である


Budweiserのスーパーボウル60における広告は、私たちに「ブランドの本質」を問いかけています。


ライバルたちがAIや最新のギミックを駆使して「未来」を競い合う中、Budweiserは自らの「歴史」を持って戦いました。テクノロジーはコピーできますが、100年かけて築き上げた「伝統」や「信頼」は、どんな競合他社も一朝一夕に模倣することはできません。


「奇をてらわない」という最強の武器を携え、スーパーボウル60の舞台で王者の風格を見せつけたBudweiser。その戦略は、変化の激しい現代を生きる全てのマーケターにとって、揺るぎない指針となるはずです。


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