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スーパーボウル60広告戦略:商品を売らずに「自信」を売る。Doveが示すパーパス・マーケティングの真髄と、継続する勇気

スーパーボウル60(LX)の広告戦略を読み解くシリーズ、第4弾となる今回は、パーパス・マーケティングのパイオニアであり、トップランナーでもあるDove(ダヴ)を取り上げます。


これまで、Oakley Metaの「テクノロジーの人間化」、Pringlesの「ポップカルチャーへの同調」、Budweiserの「ヘリテージへの回帰」と、各ブランドの多様なアプローチを見てきました。しかし、Doveの戦略はこれらとは一線を画します。


なぜなら、彼らはスーパーボウルという世界最大の「商品宣伝の場」において、ほとんど商品を宣伝しないからです。


30秒で約12億〜13億円という莫大な広告費を投じて流される映像。そこに映し出されるのは、美しく泡立つ石鹸でも、しっとりと潤う肌でもありません。映し出されるのは、スポーツの現場で傷つき、泥だらけになりながらも、懸命に自分自身と向き合う少女たちの姿です。


一見するとマーケティングのセオリーを無視しているようにも見えるこのアプローチ。しかし、その裏には、短期的な売上を超えた、極めて強固なブランド戦略と、それを実行する企業の並々ならぬ決断が存在します。


1. アウェイ戦での「カウンター・プログラミング」:企業の覚悟


まず理解すべきは、スーパーボウルという「場所」とDoveというブランドの相性です。

伝統的に、スーパーボウルの視聴者層は男性が中心であり、広告の内容もビール、自動車、スナック菓子といった男性向け、あるいはマス向けの商材が主流でした。その文脈において、女性の自己肯定感をテーマにするDoveの広告は、完全に「アウェイ戦」であり、ある種の「異物」です。


しかし、Doveはこれを逆手に取ります。


スーパーボウルという「場所」とDoveというブランドの相性は?
スーパーボウルという「場所」とDoveというブランドの相性は?

レポートにある通り、彼らの狙いは「カウンター・プログラミング」です。屈強な男たちがぶつかり合うフットボールの試合の合間に、あえて繊細で、しかし力強い少女たちのメッセージを流す。この強烈なコントラストが、視聴者の注意を引きつけ、議論を巻き起こす起爆剤となります。


私が主張したい第一のポイントは、この選択には企業としての莫大な「勇気」と、経営レベルでの重大な「判断」が必要だということです。


もし、この広告が「意識高い系」と冷笑されたり、フットボールファンから反発を買ったりすれば、ブランドイメージは大きく毀損します。それでもなお、「商品を売る」ことよりも「社会課題(パーパス)を伝える」ことを優先する。これは、現場のマーケティング担当者のレベルで決められることではありません。「Doveは何のために存在するブランドなのか」という、企業の存在意義(パーパス)そのものへの深い問いかけと、トップダウンのコミットメントがなければ不可能な決断です。


2. 一貫性こそが力なり:長期的なブランド・エクイティの構築


Doveのパーパス・マーケティングが他の追随を許さない最大の理由は、その圧倒的な「一貫性」にあります。


多くのブランドが、流行りに乗ってSDGsや社会貢献活動(CSR)を表面的に取り入れ、すぐにやめてしまう「グリーンウォッシュ」や「ウォークウォッシュ」の罠に陥りがちです。しかし、Doveは違います。


彼らは2004年の象徴的な「Real Beauty」キャンペーン以来、20年以上にわたって「美の定義を広げ、女性の自己肯定感を高める」という一つのテーマを掘り下げ続けてきました。

そして、スーパーボウルにおいても、3年連続で「Body Confident Sport(スポーツにおける身体への自信)」という具体的な課題に焦点を当てています。少女たちが、思春期における身体の変化や周囲の視線(ボディシェイミング)によってスポーツを辞めてしまうという問題です。


昨年のSuperBowlのコマーシャル:These Legs: A Dove Big Game Film

これが、私の主張したい第二のポイントです。この「継続」こそが、最強のブランド戦略なのです。


1回限りの派手な花火ではなく、同じメッセージを、異なる角度から、粘り強く発信し続ける。これにより、消費者はDoveというブランドに対して、機能的価値(肌がきれいになる)を超えた、情緒的で社会的な信頼(Brand Trust)を寄せるようになります。

「Doveは本気だ」「Doveなら、この問題を一緒に考えてくれる」。


このように、ブランドが社会課題の「代弁者」としてのポジションを確立することこそが、長期的なブランド・エクイティ(資産)の構築につながります。そして結果として、競合他社が価格競争を仕掛けてきても揺らがない、強固なロイヤルティを築くことができるのです。


Dove Real Beauty Sketchesは、12年前の広告

3. マーケターが学ぶべき「本気」の証明


Doveの事例から私たちが学ぶべきは、パーパス・マーケティングを成功させるための「本気の証明」の方法です。


口先だけで「自信を持とう」と叫ぶのは簡単です。しかし、Doveはそれにとどまりません。Nikeと共同開発したコーチ向けの指導ツール(Body Confident Sport program)への具体的なアクセスを提供しています。


啓発(Awareness)だけで終わらせず、具体的な行動(Action)への道筋を用意する。ここまでやって初めて、消費者は企業の「本気度」を信じます。


美しさだけでなく、大胆さのために構築する
美しさだけでなく、大胆さのために構築する

スーパーボウル当日は、CMを見た視聴者がどれだけこのツールにアクセスしたか、そしてSNSで親世代が自身の体験を語り出したか(自分語りの誘発)が、キャンペーンの成否を測る重要な指標となるでしょう。


結論:信念がブランドを強くする


Doveのスーパーボウル広告は、マーケティングという仕事が持つ可能性を改めて私たちに示してくれます。


それは、単にモノを売るためのテクニックではありません。社会に対して問いを投げかけ、議論を喚起し、少しでも良い方向へ世界を変えていくための強力なツールになり得るということです。


もちろん、すべてのブランドがDoveの真似をする必要はありませんし、できるわけでもありません。しかし、「自社のブランドは何のために存在するのか」という問いから逃げず、一度決めた信念を貫き通す勇気を持つこと。その姿勢こそが、不確実な時代において、消費者に選ばれ続けるブランドになるための唯一の道なのかもしれません。


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