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スーパーボウル60広告戦略:Uber Eatsが仕掛ける「陰謀論」とコマースの究極融合

導入:デリバリーから「カルチャー」へ。Uber Eatsの挑戦


前回の記事(スーパーボウル60広告戦略:商品を売らずに「自信」を売る。Doveが示すパーパス・マーケティングの真髄と、継続する勇気)では、スーパーボウルLX(第60回スーパーボウル)における各ブランドの戦略的転換点について触れました。今回は、その中でも特にユニークで、現代のマーケティングにおける「エンターテインメントとコマースの境界線」を再定義しようとしているUber Eatsの事例に焦点を当てます。



スーパーボウルは、Uber Eatsにとって単なる広告の場ではありません。それは、サービス利用のピークタイムであると同時に、「レストランの料理を運ぶサービス」から、「必要なものは何でも届く(Get Almost Anything)」プラットフォームへと認識を拡張するための、絶好のショーケースです。


競合のDoorDashもNFLと強力なパートナーシップを結ぶ中、Uber Eatsはいかにしてマインドシェアの争奪戦を制そうとしているのでしょうか。その鍵は、インサイトの大胆な「逆転」と、視聴者を巻き込む「メタ・ナラティブ(超越的な物語)」にあります。


1. インサイトの逆転:「試合を見るために食べる」から「食べるために試合がある」へ


通常のUber Eatsの広告戦略(BAU)は、「Tonight I'll be Eating(今夜、私がいただくのは)」シリーズに見られるように、意外なセレブリティの組み合わせで話題を作りつつも、最終的には具体的なメニューやプロモーション利用を促すトランザクショナル(購買直結型)なものです。


しかし、スーパーボウル60という特別な舞台で、彼らはこの常識を覆します。2026年のキャンペーン「Football is For Food」は、強力な消費者インサイトの逆転に基づいています。

私たちは通常、「試合観戦のお供に食事をする」と考えます。しかしUber Eatsは、この因果関係を逆手に取り、「フットボールという競技自体が、実は食べ物を売るために発明された巨大な陰謀である」という壮大なフィクションを構築したのです。


この「嘘」に信憑性とエンターテインメント性を持たせるためのキャスティングが秀逸です。「陰謀論の語り部」として起用されたのは、映画『インターステラー』などで思索的かつ怪しげな雰囲気を醸し出すマシュー・マコノヒー。彼の口から語られることで、荒唐無稽な話が妙な説得力を持ち始めます。


Tiny Truths with Matthew & Bradley | Uber Eats

脚本も徹底しています。「Pigskin(ボールの愛称)」はベーコンを売るため、「Packers(チーム名)」は食肉業者、「Super Bowl(大会名)」は巨大なボウル(器)を意味する、といった具合に、フットボール用語をすべて「食」にこじつける言語的リフレーミングが行われています。


さらに、NFLレジェンドのジェリー・ライスがこれを「事実だ」と認めたり、現役スターのクリスチャン・マキャフリーが疑心暗鬼に陥ったり、マーサ・スチュワートのような異ジャンルのスターが登場することで、このジョークの世界観に厚みが加えられています。



2. ユーモアとプロモーションの融合は、なぜ重要か?


私がこのキャンペーンで特に注目したいのは、「高度なユーモア」と「露骨なプロモーション」がいかにシームレスに融合されているかという点です。


一見すると、マシュー・マコノヒーが語る陰謀論は、純粋なエンターテインメントのように見えます。スーパーボウルという「巨大な商業主義の塊」を、広告主自らが「そうだよ、これは全部モノを売るためのショーなんだよ」とパロディ化するメタ構造は、広告に冷笑的な視聴者の懐に入り込むための強力な武器です。正直さとユーモアは、広告回避(Ad Avoidance)を超える鍵となります。


しかし、Uber Eatsの戦略の真骨頂は、このエンタメの皮を被った中に、しっかりとコマースへの導線を仕込んでいる点にあります。


例えば、CM内で「陰謀の一部」として語られるメニュー(例:マーサ・スチュワートのサラダ)は、単なる小道具ではありません。実際にUber Eatsのアプリ内で注文可能になっているのです。フィクションの世界で興味を持った視聴者が、現実世界でアプリを開き、購買行動を起こす。このオムニチャネルの連携が見事にデザインされています。


Football is For Food
Football is For Food

また、マシュー・マコノヒーの背後にある「陰謀ボード」や映像の端々に、プロモーションコードが隠されている可能性も指摘されています。これは、CMを「見る」だけでなく「解読する」というゲーミフィケーションの要素を取り入れ、視聴者のエンゲージメントを深めると同時に、アプリへのトラフィックを確実に誘導する仕掛けです。


「面白いCMだったね」で終わらせず、「面白かったから、実際にアプリを開いてみた」という行動変容まで設計図に落とし込む。これこそが、現代のスーパーボウル広告に求められる「ユーモアとプロモーションの融合」の理想形と言えるでしょう。単なる認知獲得ではなく、「エンターテインメント体験を通じたコマースへの誘導」が実現されているのです。


3. 当日のコマーシャルで、実際の対戦チームに合わせた内容に変わるかが要注目


もう一点、マーケターとして見逃せないのが、スーパーボウル当日のリアルタイムな動的展開の可能性です。

CMに出演しているNFLのスター選手、クリスチャン・マキャフリー(49ers所属)は、今回スーパーボウルには出ません。


実際のスーパーボウルの出場選手が、CMに出る?
実際のスーパーボウルの出場選手が、CMに出る?

想像してみてください。試合中に実際のスーパーボウルの出場チームの選手が活躍した直後のCMブレイクで、その選手が登場するバージョンのCMが流れる。あるいは、試合結果に合わせてCMのエンディングが微妙に変化する。もしこれが実現すれば、その相乗効果は爆発的なものになるでしょう。録画された素材を流すだけの従来のテレビCMの枠を超え、ライブイベントの熱狂と完全に同期した「生きたコンテンツ」となります。


これは技術的にも大きな挑戦です。複数のバージョンの素材を用意し、試合展開に合わせて瞬時に差し替えるオペレーション、そしてCM放映直後の注文集中に耐えうるサーバーの安定性 など、クリアすべきハードルは少なくありません。しかし、もしUber Eatsがこれをやってのければ、スーパーボウル広告の歴史に新たな1ページを刻むことになるはずです。



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