MUSE: AIに広告が混ざる恐怖?Anthropic (Claude) の警告 "Betrayal"
- 本間 充/マーケティングサイエンスラボ所長

- 2月20日
- 読了時間: 5分
聖域への侵入
今回ご紹介するのは、Anthropic社が提供する生成AI『Claude』のコマーシャル映像です。
この広告は、Anthropic、Claudeの広告で、MUSE: AIに「広告」は必要か?Claudeが描く未来と「Short King」の英会話 で紹介したコマーシャル同様に、スーパーボウルで流れたものです。そしてこのCMも、「AIにも広告がやってくる。しかし、Claudeには来ない」が、主張です。
そして、この事例は、「AIに個人的な悩みを聞いたときに、その答えの中に、広告が入ってきたら、どう思う?」という大きな疑問を呈しています。
まさに、スーパーボウルという、全米の家族が見ている時に、この広告を流すのは、大きな挑戦だと言えます。
「Betrayal(裏切り)」と題されたこの映像は、私たちがAIに求める「信頼」とは何かを、痛烈なユーモアと共に問いかけています。
英語の文字起こし
Man: How do I communicate better with my mom?
Woman (AI): Great question. Improving communication with your mom can bring you closer. Here are some techniques you can try.
Start by listening. Really hear what she's trying to say underneath her words.
Build conversation from points of agreement.
Find a connection through shared activity. Perhaps a nature walk?
Or, if the relationship can't be fixed, find emotional connection with other older women on Golden Encounters. The mature dating site that connects sensitive cubs with roaring cougars.
Man: What?
Woman (AI): Would you like me to create your profile?
(Text on Screen): Ads are coming to AI. But not to Claude.
(Logo): Claude. Keep thinking.
完全日本語訳
男性: 母さんともっとうまくコミュニケーションをとるには、どうしたらいいかな?
女性(AIの声): 素晴らしい質問ですね。お母様とのコミュニケーションを改善すれば、二人の距離はもっと縮まるはずです。いくつか試せるテクニックをご紹介しましょう。
まずは「聞く」ことから始めてみて。彼女が言葉の「奥」で本当に伝えようとしていることに、耳を傾けるのです。
お互いに合意できる点から会話を広げていきましょう。
何かを一緒にすることでつながりを見つけるのもいいですね。例えば、自然の中を散歩してみるとか?
あるいは……もし関係が修復不可能なら、「ゴールデン・エンカウンターズ」で他の年配女性との心のつながりを見つけましょう。ここは、繊細な子ライオンたちと、吠えるクーガー(肉食系熟女)を結びつける、大人のための出会い系サイトです。
男性: ……は?
女性(AIの声): あなたのプロフィールを作成しましょうか?
(テロップ): AIにも広告の波が押し寄せています。でも、Claudeには来ません。
(ロゴ): Claude. 思考を止めるな(考え続けよう)。

英会話TIPS
このCMの面白さは、非常に真面目なトーンから急激に下世話な広告へ転換する落差にあります。そのニュアンスを理解するための表現をピックアップしました。
1. Underneath her words
「言葉の下で」というのが直訳ですが、これは「言葉の裏にある真意」や「言外のニュアンス」を指します。"Read between the lines"(行間を読む)に近い表現ですが、"Underneath"を使うことで、表面的な言葉の奥深くに隠された感情を探るような、より思慮深い響きがあります。
2. Shared activity
「共有された活動」=「一緒にできること」です。マーケティングやチームビルディングでもよく使われる表現ですが、ここでは「散歩(Nature walk)」のような健全な提案として使われています。これが直後の「出会い系」との対比を際立たせています。
3. Sensitive cubs with roaring cougars
ここがこのCMの最大のパンチライン(オチ)です。
Cougar(クーガー): アメリカの俗語で、自分よりかなり若い男性をパートナーとして好む、経済力のある年上の女性を指します(動物のピューマのこと)。
Cub(カブ): 本来は猛獣の子供を指しますが、ここではCougar(熟女)の相手となる「若い男性」を指しています。
「繊細な子ライオン(悩める息子)」を「吠える肉食獣(出会いを求める熟女)」にマッチングさせるという表現は、息子として母親との関係に悩んでいる男性に対して、最も不適切で気まずい提案であり、爆笑を誘うポイントです。

マーケティング分析
1. ターゲットとインサイト
この広告のターゲットは、GoogleやBingなどの検索エンジン、あるいはChatGPTなどのAIツールを日常的に使用している一般層およびビジネス層です。
ユーザーインサイトとしては、「検索結果に広告が混ざるのが鬱陶しい」「AIが本当に自分のために答えているのか、スポンサーのために答えているのか疑わしい」という、デジタル空間における潜在的な不信感を突いています。
2. 戦略:「Enshittification(プラットフォームの劣化)」へのアンチテーゼ
近年、テック業界では「Enshittification(糞化)」という言葉が議論されています。最初はユーザーファーストだったサービスが、収益化のために広告だらけになり、ユーザー体験が劣化していく現象です。
Anthropicは、競合他社(特に検索連動型AIを目指す企業)が広告モデルを導入し始めていることを逆手に取り、「Claudeはあなたを売り物にしない」「Claudeは純粋な知性である」というポジショニングを確立しようとしています。
3. クリエイティブの手法:Betrayal(裏切り)の疑似体験
CM前半のAIのアドバイスは完璧で感動的です。BGMも感動的で、視聴者も「いい話だな」と思い始めます。しかし、その信頼がピークに達した瞬間に、もっとも下世話な「出会い系広告」が割り込みます。
視聴者は、主人公の男性と同じように「は?(What?)」と感じ、裏切られた気持ちになります。
「個人的な悩みを相談している時に広告が入る」という体験がいかに不快かを、理屈ではなく「感情(不快感)」として疑似体験させることで、「だからClaudeを使うべきだ」という結論に強力に誘導しています。
4. メッセージ:「Keep thinking」
最後のタグライン「Keep thinking」は、直訳すれば「考え続けろ」ですが、この文脈では「AIに思考を委ねすぎて、広告に踊らされるな」という警鐘と、「Claudeはあなたの思考を中断させない」という約束のダブルミーニングになっています。スーパーボウルという巨大な広告の祭典で、「広告が入らないこと」を売りにするのは、非常に皮肉が効いており、かつ強力なブランドステートメントです。

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