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価格設定は「コスト計算」ではなく「信頼の設計」だった

事業を運営されている方、これから新しいサービスを始めようとしている方にとって、「価格設定」は本当に頭の痛い問題ですよね。

  • 「原価にこれくらい利益を乗せればいいか…」

  • 「競合があの価格だから、うちはこれくらいで…」

そんな風に「どんぶり勘定」 になっていませんか?


私自身、この「価格」というテーマについて深く調査・研究する機会がありました。そこには、私たちが普段何気なく接している「価格」が、実は非常に深く、戦略的で、時には感情的ですらある、という事実が体系的にまとめられていました。

今日は、その私の調査・研究から学んだ「価格設定の奥深い世界」を、皆さんに分かりやすくシェアしたいと思います。もし今、価格設定で迷っているなら、きっと新しい「思考の軸」が見つかるはずです。


1. あなたの価格設定は「作業」? それとも「戦略」?


私の調査・研究によると、価格設定には大きく分けて3つの基本的なアプローチがあります。

  • ① コストプラス法(自社起点)

    • これは、製造原価やコストに、自社の利益(マージン)を足し算して決める方法です。一番シンプルで、「これで売れれば必ず利益が出る」という安心感があります。

 コストプラス法(自社起点)
 コストプラス法(自社起点)
  • ② 競争ベース価格設定(競合起点)

    • 競合他社の価格を基準(ベンチマーク)にして、それより少し安くしたり、同じにしたりする方法です。価格競争のリスクを避けたい、という防衛的な論理ですね。

競争ベース価格設定(競合起点)
競争ベース価格設定(競合起点)
  • ③ バリューベース価格設定(顧客起点)

    • これが最も重要です。自社のコストではなく、顧客が「その商品にどれだけの価値を感じるか」を基準に価格を決めるアプローチです。

バリューベース価格設定(顧客起点)
バリューベース価格設定(顧客起点)

多くの人が①の「コストプラス法」から始めてしまいますが、私の調査・研究では、これを厳しく「戦略ではなく作業である」 と結論づけています。なぜなら、顧客が「もっと高くても欲しい!」と思っている価値を提供していても、コストが低ければ不当に安く売ってしまい、利益を逃す(機会損失)可能性があるからです。

また、②の「競合ベース」も、「価格決定権を他社に明け渡す」 という「思考停止」 に陥る危険があります。競合が値下げしたら、自分も追随するしかない消耗戦 に巻き込まれてしまいます。


真の「戦略」とは、③の「顧客が感じる価値(バリュー)」からスタートすることなのです。


2. なぜ「1,980円」は安く感じるのか?(心理的価格設定)


価格は、合理的な「対価」であると同時に、人の「感情」に強く訴えかけるものでもあります。私の調査・研究では、顧客心理を巧みに利用したテクニックも明らかになりました。

  • ① 端数価格(はすうかかく)

    • スーパーや家電量販店でおなじみの「1,980円」 や「2,980円」 です。 これは、「2,000円」と「1,980円」の差はたった20円でも、私たちの脳は左側の数字(1と2)を強く認識するため、「1,000円台」と「2,000円台」という大きな差があるように錯覚してしまう心理(Left-Digit Bias)を利用しています。

  • ② 名声価格(威光価格)

    • ①とは真逆です。高級時計やハイブランドのバッグが「50,000円」 や「1,000,000円」とキリの良い価格なのは、「高価格=高品質・ステータス」という心理を利用しているからです。 もし高級ブランドが「19,800円」のような端数価格を使ったら、一気に「安っぽい」イメージになり、ブランドの信頼が失われてしまいますよね。

  • ③ おとり効果(松竹梅の法則)

    • 飲食店のコースメニュー で「松:10,000円」「竹:7,000円」「梅:4,000円」とあると、多くの人が真ん中の「竹」を選びませんか? これは、人間が「極端な選択を避けたい」 という心理(極端回避性) を利用したものです。「松(高すぎるかも)」と「梅(安すぎて足りないかも)」というリスクを避け、最も「無難」で「合理的」に見える「竹」に誘導しているのです。 この時、「松」と「梅」は、実は「竹」を選ばせるための「おとり(Decoy)」として機能しているんですね。

 おとり効果(松竹梅の法則)
 おとり効果(松竹梅の法則)

3. 「推し活」と「投げ銭」——対価を超えた「感情」の価格


私の調査・研究で最も現代的だと感じたのが、この「感情的な価格」 の分析です。

皆さんは、YouTubeの「スーパーチャット」 やライブ配信の「投げ銭」 をどう思いますか? コンテンツ自体は無料で視聴できるのに、なぜ人々は自発的にお金を支払うのでしょうか。


私の調査・研究によれば、これは従来の「商品の対価」 という経済合理性を超えています。視聴者が支払うのは、コンテンツの対価ではなく、

  • 配信者を「直接」応援したいという「感謝」や「貢献」の気持ち

  • そのコミュニティの一員であるという「絆」や「参加証」

といった「感情的価値」 に対してなのです。これは、大道芸の「おひねり」 がデジタルに進化した形とも言えますね。

また、アーティストが「支払いたい額をあなたが決めてください(Pay What You Want)」 というモデル(PWYW) もあります。合理的に考えれば皆「0円」を選びそうですが、実際には多くの人が「公平でありたい」「感謝を示したい」 という動機から支払いを行うそうです。


4. 結論:価格設定とは「顧客との信頼関係」を設計すること


ここまで見てきたように、「価格」は単なる数字ではありません。

私の調査・研究では、価格設定を**「顧客との信頼関係を設計すること」** と結論づけています。

  • Lexus が「名声価格」 を維持するのは、「最高品質を約束する」という顧客への信頼の証です。

  • chocoZAP が「2,980円」という「端数価格」 を維持するのは、「手軽さを約束する」という信頼の証です。

  • そして「投げ銭」 は、「感謝」という信頼関係そのものです。

私たちが価格設定で失敗するのは、計算ミスではなく、「不公平だ」と顧客の信頼を失う時です。理由が不透明な値上げ や、価値が伴わない高価格 は、顧客の信頼を裏切ります。

これから価格を決めるあなたへ。私の調査・研究からの提言はこうです。

あなたの「価格」を、「コスト(原価)」から定義してはいけません。それは単なる「作業」です。 あなたの「価格」を、「競合」から定義してもいけません。それは「模倣」であり、戦略の放棄です。あなたの「価格」は、あなたが「顧客に提供したい価値(Value)」と「顧客と築きたい関係性(Relationship)」から定義されなければなりません。

あなたの「価格」は、あなたの事業の「哲学」 そのものです。 コスト計算から始めるのではなく、まずは「顧客にどんな価値を届け、どんな関係を築きたいか」から考えてみませんか?

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