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思い立って1日!「うどんへの支出」の歴史を追い求めて、政府統計APIと無料ツールでWebサービスを作ってみた話

「日本の家庭では、うどんやそばへの支出って、この20年でどう変わってきたんだろう?」

ふと、そんな疑問が頭に浮かびました。昔ながらの食文化が、新しい食生活にどう影響されているのか、データで見てみたくなったのです。そして、どうせならその結果を誰でも見られるWebサイトとして公開してみたい。


そんな無謀とも思える挑戦を、プログラミング初心者の私が、なんとほとんど無料のツールだけで実現できてしまいました。今回は、そのアイデアから実際のWebサイト公開までの全記録をご紹介します。


完成したサイトはこちらです。ぜひ、色々な品目を切り替えて遊んでみてください! https://www.mslabo.org/ref/house-outgoing


宝の山との出会い:e-StatとAPI連携


今回のプロジェクトの心臓部、それは日本の政府が公開している統計データサイト「e-Stat」です。国勢調査から物価、家計まで、ありとあらゆるデータがここに眠っています。

普通なら、サイト上でポチポチとクリックしてCSVファイルをダウンロードするのですが、それでは毎月のデータ更新に対応するのが大変です。そこで登場するのが「API連携」という魔法です。

APIを初心者向けに説明するなら、「データの専門ウェイター」のようなもの。私たちが「こういうデータが欲しい」と書いた注文書(プログラムコード)を渡すと、このウェイターがe-Statという巨大な厨房へ行き、目的のデータだけを正確に、そして大量に持ってきてくれるのです。


このAPIのおかげで、「毎月自動で最新データをチェックする」といった夢のような仕組みが実現可能になります。今回はGoogleスプレッドシートに組み込まれているプログラミング言語「Google Apps Script (GAS)」を使い、このウェイター(API)にデータの注文を出すことにしました。


データの海を渡る:約40年分のデータをスプレッドシートへ


API連携の道のりは、正直に言うと、平坦ではありませんでした。APIにはそれぞれ独自の「お作法」があり、それを理解するのに試行錯誤の連続でした。どの統計表IDが正しいのか、どんなパラメータ(注文の形式)で送れば良いのか。何度もエラーと向き合い、ログを解析し、少しずつ正解に近づけていく過程は、まるで謎解きゲームのようでした。

そして、ついに正しい注文方法を発見した瞬間、APIは驚くべき量のデータを返してくれました。426品目について、2000年からの月次データ、その数なんと約90万行!手作業では絶対に不可能な量のデータが、プログラムを実行して数分待つだけで、スプレッドシートに流れ込んできたのです。


この「宝の山」を手に入れた時の興奮は、何物にも代えがたいものでした。これこそがAPI連携の醍醐味です。


データに命を吹き込む:Looker Studioとの簡単連携


さて、90万行の生データはただの数字の羅列です。ここからどうやって、あのインタラクティブなグラフを作るのか?ここで登場するのが、もう一つの無料ツール「Looker Studio」です。


Looker Studioは、Googleが提供する「BI(ビジネスインテリジェンス)ツール」で、難しいデータを簡単に見栄えの良いグラフや表に変換してくれます。

驚くべきは、その連携の手軽さです。 GoogleスプレッドシートとLooker Studioは同じGoogleのサービスなので、接続は数回クリックするだけ。先ほど取得した90万行のデータシートを指定すると、あっという間にLooker Studioがデータを認識してくれます。

そして、ここからがLooker Studioの真骨頂。


  • 「グラフを追加」→「時系列グラフ」を選んで、縦軸に「支出金額」、横軸に「日付」を指定。

  • さらに「内訳ディメンション」に「品目名」を指定するだけで、品目ごとに色が分かれた折れ線グラフが完成。

  • 「コントロールを追加」→「プルダウンリスト」を選んで、「品目名」を紐づけるだけで、ユーザーが自由に品目を選択できるフィルターが設置完了。


プログラミングは一切不要。まるでPowerPointで図形を配置するように、ドラッグ&ドロップで対話的なダッシュボードが出来上がってしまいました。


Looker Studio
Looker Studio

世界へ公開:Webサイトへの埋め込み


最後の仕上げです。Looker Studioで作ったこの素晴らしいダッシュボードを、Webサイトとして公開します。


これも驚くほど簡単でした。Looker Studioの共有設定を「リンクを知っている全員が閲覧可」に変更し、「レポートを埋め込む」メニューから<iframe>というHTMLコードをコピーするだけ。


この<iframe>コードは、あなたのWebページに「窓」を作るようなものです。その窓を覗き込むと、Looker Studioのレポートがそのまま表示される、という仕組みです。 あとは、このコードを貼り付けたHTMLファイルをWebサーバーにアップロードすれば、誰でもアクセスできるWebサービスの完成です。


まとめ:アイデアは無料ツールで形になる


「うどんの支出の歴史が見たい」という小さな好奇心から始まったこのプロジェクト。終わってみれば、

  • e-Stat API で政府のオープンデータを自動取得し、

  • Google Apps Script でスプレッドシートに格納し、

  • Looker Studio で対話的に可視化し、

  • Webサイト として世界に公開する

という、本格的なWebサービスのパイプラインを、ほとんど無料のツールだけで構築することができました。 もちろん、たくさんの試行錯誤はありましたが、一つ一つのステップは決して難しすぎるものではありません。この記事が、何かを作ってみたいと思っているプログラミング初心者の方にとって、最初の一歩を踏み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

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