さらばAIDMA、AISAS。AI時代は「認知」が不要になる?新マーケティングフレーム「IDEA(イデア)」モデルの全貌
- 本間 充/マーケティングサイエンスラボ所長

- 1月13日
- 読了時間: 7分
マーケティングの世界では、長らく「いかにして消費者の注意(Attention)を引くか」が最大のテーマでした。テレビCMで認知を獲得する「AIDMA」、インターネット検索で能動的に探してもらう「AISAS」。いずれの時代も、起点は企業のメッセージが消費者に「届く」ことでした。
しかし、生成AIの爆発的な普及は、この前提を根本から覆そうとしています。「検索する」という行為すら面倒になり、AIが私たちが欲する前に「これでしょう?」と差し出してくれる時代。そこでは、従来のマーケティングフレームワークは機能不全に陥ります。
本記事では、AIがもたらすマーケティングの構造変化を読み解き、AIDMA、AISASに代わるAI時代の新たな行動モデル「IDEA(イデア)」を提唱します。なぜ「認知」が不要になるのか、そして企業は次に何をすべきなのか。その答えを探ります。
1. フレームワークの変遷:AIDMAからAISAS、そして…
新しいモデルを理解するために、まずは私たちが慣れ親しんできたフレームワークを簡単に振り返りましょう。時代の変化は、消費者の情報環境の変化とリンクしています。
マスメディア時代の「AIDMA(アイドマ)」
インターネット以前、情報がテレビや新聞から一方的に流れてきた時代のモデルです。
Attention(注意):CMを見て商品を知る。
Interest(関心):「面白そう」と興味を持つ。
Desire(欲求):「欲しい」と思う。
Memory(記憶):買うまで覚えておく。
Action(行動):お店で買う。
ここは一本道の「漏斗(ファネル)」であり、企業はいかに多くの人にAttentionの網をかけるかが勝負でした。
インターネット時代の「AISAS(アイサス)」
WebとSNSの登場で、消費者は能動的になりました。
Attention(注意):ネット広告や投稿で知る。
Interest(関心):興味を持つ。
Search(検索):Googleで検索し、比較サイトを見る。
Action(行動):ECサイトで購入する。
Share(共有):SNSで感想をシェアし、次のAttentionを生む。
「検索」と「共有」が加わり、購買行動はループするようになりました。しかし、依然として起点は「Attention(知る)」ことにありました。
2. AIパラダイムシフト:「認知(Attention)」の終焉
ここからが本題です。なぜAIの登場で、これまでのフレームワークが通用しなくなるのでしょうか。
私の日経COMEMOの記事『「ブランド名」を忘れても買える時代。生成AI検索が突きつけるマーケティングの地殻変動』では、非常に重要なことを指摘しました。それは、AIが進化すると「最初のAttentionも、必ずしも必要ありません」という点です。
これまでのマーケティングは、消費者が「何かが欲しい」と自覚し、それを探す(検索する)プロセスを前提としていました。企業は、その検索結果の上位に表示されるようSEO対策をしたり、SNSでバズる努力をしてきました。
しかし、高度にパーソナライズされたAIエージェントが普及した世界を想像してください。AIは、あなたの過去の行動、カレンダーの予定、体調データ、趣味嗜好をすべて把握しています。
あなたが「週末、どこか行きたいな」とぼんやり思った瞬間、あるいは思うよりも前に、AIはこう言います。 「今週末は久しぶりに晴れますね。以前気になっていた〇〇高原のホテル、今なら空きがあります。最近お疲れ気味のようなので、温泉付きのプランを仮押さえしました。いかがですか?」
ここには、あなたが能動的に広告を見る「Attention」も、必死に比較検討する「Search」も存在しません。AIがあなたの潜在ニーズを先読みし(予測)、最適な選択肢を提示(代行)しているのです。
消費者は面倒な情報収集から解放され、AIが提示する「最適解」を承認するだけの存在になります。これが、AI時代におけるマーケティングのパラダイムシフトです。
3. AI時代の新フレームワーク「IDEA(イデア)」モデルの提唱
「認知」が自動化され、「検索」が不要になった世界で、消費者はどのような行動をとるのでしょうか。AIDMA、AISASに続く、AI時代の新たな人間中心のマーケティングモデルとして、私は「IDEA(イデア)」モデルを提唱します。

IDEAは、以下の4つのプロセスの頭文字をとったものです。
Intent(意図・想い)
Decision-support(意思決定支援)
Execution(実行)
Adaptation(適応・学習)
このモデルの最大の特徴は、起点が外部からの刺激(広告など)ではなく、人間の内なる「意図(Intent)」にある点、そして行動が直線ではなく、データを通じて循環(Adaptation)する点にあります。

(※後述のプロンプトで生成した図をここに配置します。AIDMA/AISASのファネル型・検索型から、IDEAのAI介在型・循環型への変化を視覚的に示します)
4. 「IDEA」モデルの詳細プロセス解説
では、IDEAモデルの各ステップを具体的に見ていきましょう。企業がどこにアプローチすべきかも見えてきます。
Ⅰ. Intent(意図・想い)
「ふわっとした願いを持つ」 これからの消費行動の起点は、明確な言語化以前の「なんとなく〇〇したい」「今の状態を良くしたい」という抽象的な意図や想いです。
消費者の行動
「そろそろ旅行行きたいかも」「なんか美味しいもの食べたい」といった漠然とした欲求を抱く。あるいは、AIエージェントに「週末のいい感じの予定立てて」と曖昧な指示を出す。
企業の役割
ここで広告を出しても届きません。重要なのは、消費者がその意図を持った瞬間に、AIが自社製品を想起してくれるような「データのエコシステム」に入り込んでいることです。普段から生活に溶け込んだサービスを提供しているかが問われます。
D. Decision-support(意思決定支援)
「AIが賢く選び出す」 AISASにおける「Search(検索)」「Comparison(比較)」のプロセスを、AIが代行します。これがIDEAモデルの核です。AIは、膨大な選択肢の中から、ユーザーの文脈(コンテキスト)に最も合う「最適解」を瞬時に絞り込みます。
AIの行動
ユーザーの過去の購買履歴、現在の位置情報、気分、市場のトレンドなどを総合的に分析し、「あなたにはこれがベストです」と提案する。人間は、自分で探すのではなく、提示された選択肢を「選ぶ(承認する)」だけになる。
企業の役割
検索順位を上げることよりも、「AIのアルゴリズムに選ばれること」が至上命題になります。そのためには、製品情報が正確かつAIが読み取りやすい構造化データで提供されているか、そして何より「このユーザーにはこの商品が合う」とAIが判断する根拠となる「信頼データ」が蓄積されているかが重要です。
E. Execution(実行)
「摩擦ゼロで完了する」 意思決定から購買・体験までのタイムラグが極限まで短くなります。「欲しい」と思った瞬間に、AIが購入手続き、予約、配送手配までを完了させます。
消費者の行動
AIの提案に「OK」と承認する。あるいは、日用品などは承認すら不要で自動補充される。
企業の役割
購買プロセスの徹底的なフリクションレス(摩擦ゼロ)化です。決済の簡略化、IoTとの連携など、ユーザーが「買う」という意識すら持たずにサービスを享受できる体験設計が求められます。
A. Adaptation(適応・学習)
「使えば使うほど賢くなる」 AISASの「Share」は他者への拡散でしたが、IDEAの「Adaptation」は自己とAIへのフィードバックループです。実行した結果どうだったかというデータが、次のAIの予測精度を高めます。
消費者の行動
サービスを体験し、満足または不満を感じる。その反応(評価入力、あるいは継続利用・解約といった行動データ)がAIにフィードバックされる。
企業の役割
一度の購買で終わりではありません。利用データから顧客の満足度をリアルタイムで把握し、サービス自体を個人に合わせて進化(Adapt)させ続ける必要があります。「使えば使うほど自分好みになる」というロックイン効果を生み出すフェーズです。

(※後述のプロンプトで生成した図をここに配置します。Intentから始まりAdaptationでデータが還流するループ図を示します)
5. まとめ:マーケティングは「認知獲得戦」から「信頼構築戦」へ
AIDMA、AISAS、そしてIDEAへの変化をまとめると、以下のようになります。
項目 | AIDMA (マスメディア時代) | AISAS (ネット時代) | IDEA (AI時代) |
主導権 | 企業 (広告) | 消費者 (検索) | AI (予測・代行) |
起点 | Attention (認知させる) | Attention (認知させる) | Intent (意図を汲む) |
情報取得 | 受動的 | 能動的 (Search) | 支援的 (Decision-support) |
勝負所 | 広告のインパクト | 検索順位・口コミ | データの質と信頼性 |
「IDEA」モデルの世界では、企業が莫大な広告費を投じて「目立つ」ことの価値は相対的に下がります。派手な広告で一時的に認知を獲得しても、AIが「このユーザーの意図には合致しない」「過去のデータから満足度が低い」と判断すれば、選択肢にすら上がらないからです。
これからのマーケティングに求められるのは、AIエージェントに「信頼できる選択肢」として認識されるための、地道で誠実なデータ戦略です。
自社の製品・サービスデータは、AIが理解できる形で整備されていますか?
顧客のフィードバックを真摯に受け止め、サービスを適応(Adaptation)させていますか?
顧客の「意図(Intent)」を深く理解するためのデータを預けてもらえるだけの信頼関係を築けていますか?
「認知」の呪縛から解き放たれたとき、マーケティングはより本質的な「顧客価値の創造」へと回帰していくはずです。AI時代の新フレームワーク「IDEA」を、貴社の戦略を再考する羅針盤としてご活用ください。





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