AIは「おもちゃ」から「相棒」へ。2つのチャットボットが語る、驚くべき25年の進化。
- 本間 充/マーケティングサイエンスラボ所長
- 4 日前
- 読了時間: 5分
25年の時を超えて。あの頃の“チャット”と今の“AI”を比べてみたら、開発の未来が見えてきた話
「キリ番GET!」「相互リンク募集中!」「あなたは〇〇人目のお客様です」
この言葉に胸が熱くなるあなたは、間違いなく私と同じ時代、2000年代初頭のインターネットの空気を吸っていた「インターネット老人会」の会員でしょう。当時は、誰もが手探りでHTMLを打ち込み、CGIを設置して、自分だけの「ホームページ」を作ることに夢中になっていました。そんな時代の華やかな(?)コンテンツの一つに、「チャットボット」がありました。
もちろん、今我々が知るような「AI」ではありません。あらかじめ登録しておいた言葉を、それっぽく返すだけの「なんちゃって」チャットボット。でも、私たちはそれに未来を感じ、画面の向こうにいる“誰か”との擬似的な対話に胸をときめかせたものです。
あれから約25年。インターネットは様変わりし、私たちの生活の隅々までAIが浸透し始めました。そして、かつて「なんちゃって」だったチャットボットは、驚くべき進化を遂げています。
今回、私はそんな25年という技術のタイムスリップを体感していただくために、2つのチャットボットを自作し、公開しました。一つは、あの頃の懐かしい空気が漂う「なんちゃって」チャットボット。そしてもう一つは、Googleの強力なAIプラットフォーム「Vertex AI」を使った、正真正銘のAIチャットボットです。
インターフェースはほぼ同じ。しかし、その挙動は天と地ほども違います。ぜひ、この2つのボットと対話し、技術が歩んできた長い道のりと、これから私たちが向かう未来に思いを馳せてみてください。
ノスタルジーの扉を開く:2000年代の「なんちゃって」チャットボット
まずはこちら。2000年代のウェブサイトにタイムスリップしたかのような、素朴なチャットボットです。
2000年台の「何ちゃってChatBOT」
「こんにちは」と話しかけてみてください。「お元気ですか?」と返ってくるかもしれません。でも、「今日のランチ、何食べた?」と聞くと、「よくわかりません」とか「そうなんだ!」といった、ちょっとトンチンカンな答えが返ってくるはずです。
このチャットボットの仕組みは至ってシンプル。「もし〇〇と入力されたら、△△と返す」というルールを、いくつか用意しているだけ。キーワードに引っかからなければ、あらかじめ用意されたランダムな返答をする。それだけです。当時は、この単純な仕組みでも、自分のサイトに「対話できる相手」がいるというだけで、とてもワクワクしたものです。
開発も、CGI(Common Gateway Interface)という仕組みを使い、Perlなどの言語で必死にコードを書いていました。サーバーのエラーログと格闘し、パーミッションの設定に頭を悩ませた日々。そこには、現代のような便利なフレームワークも、クラウドサービスもありませんでした。すべてが手作りで、だからこそ完成したときの喜びはひとしおでした。このチャットボットは、そんな25年前の技術的な制約と、開発者のささやかな創意工夫の結晶なのです。
AIがすぐそこに:Vertex AI搭載チャットボットの衝撃
次に、現代の技術が生んだAIチャットボットを体験してみてください。
Vertex AI を使ったAIチャットボット
先ほどと同じように話しかけてみてください。例えば、「今日のランチはカレーだったんだけど、午後の仕事が眠くて大変だよ」と少し複雑な文章で話しかけても、「カレーの後の眠気は辛いですよね。少しストレッチをしたり、冷たい水を飲んだりするとスッキリするかもしれませんよ」といった、文脈を完全に理解した自然な返答が返ってくるはずです。
これは、事前に用意された応答リストから答えを選んでいるわけではありません。Vertex AIに搭載された大規模言語モデル(LLM)が、あなたの言葉の意味をその場で解釈し、リアルタイムで最適な文章を生成しているのです。まさに「対話」。キーワードに応答するのではなく、私たちの意図や感情を汲み取り、コミュニケーションを成立させようとしてくれます。

25年前には、こんな技術が個人で、しかも比較的簡単に利用できるようになるなんて、誰が想像できたでしょうか。Google CloudのVertex AIのようなプラットフォームを使えば、専門的なデータサイエンティストでなくても、高度なAIの力を自分のアプリケーションに組み込めます。サーバー管理の煩わしさからも解放され、アイデアを形にすることだけに集中できる。これは、ものづくりを愛するすべての人にとって、革命的な変化です。
作る過程もAIと共に:開発の「相棒」としてのAI
そして、今回の話で最も重要なのが3つ目のポイントです。それは、「AIチャットボットを作る、その開発プロセス自体もAIと一緒に行った」という事実です。
今回のAIチャットボットは、Google Apps Scriptという言語で開発しましたが、そのコーディングの多くの部分で、私はAIアシスタントに相談しながら進めました。
「Vertex AIのAPIを呼び出すためのコードを書いて」 「ユーザーインターフェースをもう少し洗練させたいんだけど、CSSのアイデアをちょうだい」 「このエラーの原因は何だと思う?」
こんな風に、まるで人間の同僚に話しかけるかのようにAIに問いかけると、驚くほど的確なコードやアドバイスを返してくれます。かつて、たった一人でリファレンス本を片手にうんうん唸っていた開発の時間が、AIという頼れる「相棒」との共同作業に変わったのです。
これは、単なる作業の効率化ではありません。AIは、私たちのアイデアを刺激し、技術的な壁を乗り越える手助けをしてくれます。これまで「難しそうだ」と諦めていたようなアプリケーション開発のハードルを劇的に下げ、誰もがクリエイターになれる可能性を秘めているのです。

25年前、私たちはAIを「おもちゃ」として楽しんでいました。そして今、AIは私たちの生活を豊かにする「ツール」となり、さらには何かを生み出すための「パートナー」へと進化しようとしています。
今回公開した2つのチャットボットは、そんなAIと私たちの関係性の変化を象徴する、小さなタイムカプセルです。ぜひ、両方と心ゆくまで対話し、この25年という時間の重みと、技術の目覚ましい進化を肌で感じ取ってみてください。そして、AIと共に創り出す未来が、いかにエキサイティングなものであるかを想像していただければ、これほど嬉しいことはありません。
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